2024.02.02 エンジニアズコラム 光計測 歴史

第5回 光計測のはじまり

光計測のはじまり

皆さん、こんにちは。今回は、光の明るさを計測し始めたころのエピソードについてご紹介したいと思います。
以前お届けしたコラム「カメラはどのようにして作られたか」では「物体の像を映す方法」に着目し、カメラの歴史についてご紹介しました。コラムの中で登場した「カメラ・オブスクラ」では、壁に映った像を目で見て観測していました。しかし、工業化が進むにつれて、人類はより安定的に、かつ正確に明るさを観測する手段を得てきました。

古来、明るさを測る方法は天文学者の間で試されていましたが、人の感覚を基準にしていたため、測る度に数値がばらついて精度を確保するのが困難でした。一般に明るさが測定されるようになったのは、19 世紀のヨーロッパが始まりと言われています。当時、照明として実用化されていたオイルランプやガス灯などを維持管理するためには、明るさを規定する必要がありました。そこで、1843年に「グリーススポット光度計(ブンゼン光度計)」が発明されました。この装置を用いて、専門技術を習得した測光技師が明るさを測定することによって、精度を確保できるようになりました。

グリーススポット光度計の原理

それでは、グリーススポット光度計を用いてランプの明るさを測定してみましょう。明るさが既知の標準光源、測定したいランプ、白い紙、蝋(ロウ)、ものさしを用意します。白い紙の上に蝋を垂らして油シミを作り、紙から蝋を取り除きます。図1のように2つのランプの間に油シミを作った紙を垂直に立て、測定したいランプ側から油シミの明るさを観察します。このとき、油シミ部分は光を透過しやすく、紙の部分は光を反射しやすいため、油シミは奥の「標準光源」、紙は手前の「測定したいランプ」の明るさをそれぞれ反映していることになります。

図1

この状態で紙を動かして2つのランプからの距離を変えると、油シミの見た目が変わっていきます。例えば、紙をランプの手前に近づけると、奥の標準光源から遠ざかるため、油シミ部分は暗く見えます。一方で測定したい手前のランプに近づくため、紙部分は明るく見えます。逆に紙を奥に離すと、油シミ部分が明るく、紙部分が暗く見える、といった具合です。(図2)

図2

このように紙の位置を変えながら、紙と油シミの部分がちょうど同じ明るさになった位置で紙を固定します。前述の通り、油シミの部分は奥の標準光源、紙の部分は手前の測定したいランプの明るさを反映していることから、この紙の位置においては標準光源から届く光と、測定したいランプから届く光が同じ明るさになっていることが分かります。

この時、条件によって異なりますが、標準光源と測定したいランプが同じ明るさであれば、紙の位置は2つのランプの真ん中になります。しかし、現実の測定したいランプは製造バラつき、経年劣化などによって標準光源と同じ明るさになることはまずありません。そのため、前述の紙の位置は必ずしも2つのランプの真ん中の位置になるとは限りません。例えば「手前の測定したいランプが暗い場合、紙の位置は手前になる」といった具合に、紙は暗い方のランプに近づくことになります。

最後に、それぞれの位置関係から測定したいランプの明るさを求めます。前述のように、紙の位置はより暗い方に近づくため、その時の紙とランプの距離を測定すれば、ランプの明るさが分かります。詳細な導出は割愛しますが、標準光源から紙までの距離をd、測定したいランプから紙までの距離をd´とすると、標準光源の明るさIは既知であるため、測定したいランプの明るさI´は、以下の式で表すことができます。(式1)。

このようにグリーススポット光度計と標準光源、そして光学の知識を用いることによって、人類は人の感覚だけに頼らず、明るさを測定する方法を手に入れました。

測定方法の進化

グリーススポット光度計は、その後も改良が加えられ、鏡を使って紙の表裏を一度に見られるようにしたものや、2つの光源からの光を狭い範囲に並べて表示する「ルンマー=ブロードゥン光度計」、色の違いを測定する「フリッカー光度計」など、さまざまな光度計が考案されました。そして、グリーススポット光度計の発明から約180年、現在では、光学部品や半導体、電子部品を組み合わせた最新のカメラが、グリーススポット光度計に代わり、精密な測定値を取得しています。このように人類と共に光測定技術も日々進歩しており、ヒューテックではその進化を捉えながら新たな製品を開発しています。

参考文献

1. 中川 靖夫, 「照明教室 ―光の計測―」, 照明学会雑誌 第58巻 第6号(1974)

2. Johnston, S. F. “A history of light and color measurement, Science in the   shadows. Bristol and Philadelphia”, Institute of physics publishing. (2001)

3. D. M. LEWIS, “Bunsen’s Photometer”, Nature volume 40, p174 (1889)

エンジニアズコラム一覧へ戻る